2017年10月6日金曜日

カズオ・イシグロ氏 ノーベル賞

ノーベル賞受賞には少し驚いたが、氏の代表作は2011年に「日の名残り」「わたしを離さないで」の2作を読んでいた。ノーベル賞と関係ないときに読んでいたので、当時のわたしのブログをそのまま引用する。

TVで偶然観た番組でカズオ・イシグロを知り、「わたしを離さないで」と一緒に注文したが、ようやく入荷した。奥付をみると6月10日に17刷となっていたので増刷のせいで遅れたのだろう。
「わたしを離さないで」はクローン人間の話だったが、こちらは1920〜30年代に英国の貴族の執事をしていた男が、第2次大戦後、新しくこの屋敷の主人となった米国人から車を借りて休暇をもらい、かつての女中頭に会いに行く途中で語られる回想録で、そのまま英国の置かれた歴史的な事実を反映している。
かれは自分の感情を押し殺し、ご主人に最善を尽くすことが執事の品格だと信じて疑わない、いわゆる石頭の典型でその仕草やセリフは滑稽ですらあるが、それを1954年生まれ、5歳で英国に移住し英国籍を取得した日本人が書いたことに驚きを感じる。それを巻末の解説で丸谷才一は以下のように書いている。
「彼が現在のイギリス人の生活とそれからこの一世紀の大英帝国の有為転変とをこんなにすっきりととらへることができるのは、(略)、外国系の作家なのでイギリスおよびイギリス人に対し客観的になることができるせいもかなりある。(略)、そして今、イシグロがイギリス小説に新しくもたらしたものは、時間といふもの、歴史といふものの、優美な叙情性かも知れない。わたしは、男がこんなに哀れ深く泣くイギリス小説を、ほかに読んだことがない」
原題:The Remains of The Day(ハヤカワepi文庫)

カズオ・イシグロの原作を読んでまだそんなに日が経っていないので、原作と比較することができたが、主演のジェームズ・スティーヴンス役のアンソニー・ホプキンスもミス・ケントン役の エマ・トンプソンも舞台俳優出身のイギリス人なので見応えがあった。とくに夕暮れの桟橋に明かりがつき、映画では彼女が、原作では隣に座った男が「夕方こそ一日でいちばんにいい時間だ」と、この作品のテーマが語られるラストに近いシーンが印象的だった。

DVDの返却は明日なので、昨夜もういちど観た。原作は1956年7月に休暇をもらい主人公の執事がダーリントンホールの屋敷から6日後にウェイマスまでかつての女中頭にもういちど屋敷で働いてもらうために会いに行く間に語られる回想録で、映画では原作より女中頭が執事に対して恋心を抱くシーンが強調されている。原作の最後はダーリントン卿の屋敷を買った米国の下院議員(スーパーマン役のクリストファー・リーヴ)が休暇から帰ってくるまでに新しいジョークを練習する(映画では屋敷に迷い込んだハトを逃がす)シーンで終わっているが、私心を捨て執事の職務に忠実であろうとする主人公の姿が当時の国際政治の変化について行けなかった英国を表している。そしてこれを書いてブッカー賞(英国の最高文学賞)を受賞したのが日本生まれのカズオ・イシグロ、とにかく驚きである。原作も映画もよかった。